​とてもとても手間をかけた珈琲のこと

当店シャムロックコテージには、【とてもとても手間をかけた珈琲】というメニューがあります。

これはその名の通り、森の樹を伐り、薪割りをして、二年から三年ほど乾燥させた薪で火を熾し、青空または星空の下、たまにヤケドをしながら、焚き火で焙煎したコーヒーです。

先ずは森を歩いて、焚付けになるような小枝を拾います。お庭もきれいになるので一石二鳥です。ヤマザクラの樹の下、石で組んだファイヤープレイスが焙煎の定番の場所です。(たまに違うところでもやります)このファイヤープレイスを、わたしたちは【ルルド】という名前で呼んでいます。

火を起こすのも、もう慣れたものです。(焦っているときは、なかなか火が上手に育ちません。そんな時にコーヒーを煎っても美味しくなる訳がないので、これは自身の状態のチェック機能として有効です。)焚き火の開始から、焙煎に適した熾火の状態になるまで、かなりの時間がかかります。

それまで、待ちます。

待っている間に、その時折で、色んなことをします。でも大概は、ぼけっとして、炎を眺めています。

炎はゆらゆらと、同じ形でいることがありません。灰の上で真っ赤に輝く熾火は、マグマのように見えたり、宇宙のように見えたりします。そこへコーヒー豆を入れた器具をかざし、手を振り続けて豆を煎ります。

燃やす薪の樹種や、乾燥の程度によって、熾火の発する熱量は大きく異なります。屋外で焙煎していますので、外気温や湿度の影響も受けます。手の振り方や、熱源との距離によって調整をします。

好んで使っている器具のサイズから、一度に焙煎できる量は最大六十グラム程です。ちょうど、掌に乗るくらいの量です。これくらいが、愛おしいです。

たくさん求めてくださる人がいる時は、薪を足して、何度も、焙煎を繰り返します。

 

焚き火はとても熱いので、溶接用の革手袋を、脇に置いたバケツの水に都度浸しながら、焙煎をします。手だけでなく、顔も赤く痛いくらいに熱くなります。

睫毛も焦げる時もあるので、顔全体を覆うマスクをしようかと考えましたが、なんだか、コーヒーが美味しくなくなる気がしてやめました。

 

コーヒー豆は、煎る前と、煎った後と、一粒ずつ観察して欠点豆を取り除きます。取り除いた豆をそのまま放り投げて焚火に焼べますと、香ばしい煙が立ち上って、なんだか少し幸せです。

コーヒーの焙煎が一通り終わったら、完全に火が消えるまで、焚き火の側で待ちます。

待っている間に、その時折で、色んなことをします。でも大概は、ぼけっとして、コーヒーを飲んでくださる人のことを考えています。