Tea room
Shamrock Cottage
高原の森の奥。
静かな時間の流れを愉しむ
あなたのための、
小さな小さな、隠れ家です。
朝の時間 06:30-11:00
午後の時間 13:00-18:00
(※11時~13時はお休みです。)
営業日はWEB予約システムのカレンダーやSNSをご参照ください。
せめてもの恩返し。海苔の味。





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before
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喫茶・雪割草の場所を貸してくれたおばあちゃんが、1人でお墓の泥を掻き出していた。
とてもとても小さなスコップで。
ちょっとずつ、泥をすくっては投げているなんとも頼りなげな姿が見え、少し手伝わせてもらった。
『お墓は奇跡的に流されなかったのよね。
お父さんのお墓、息子が親孝行させてくれって、新しいきれいなのを建ててくれて。
流されなくて本当に良かった。』
その日は既に夕刻だったために、ボランティア活動の終了時間が迫っていたので、
帰りの車の中で私たちは「明日は、あのお墓を少しでもきれいにするお手伝いをしよう」と決めた。
相談すると、ボランティア団体の代表を務める山本さんも勿論承諾してくれた。
喫茶・雪割草では、本当にお世話になったから。
何か少しでも、おばあちゃんの力になりたかった。
作業を始めると、泥の重さに驚いた。
粘土質の泥はスコップにへばりついて、投げるに投げられない。
この重く重く、スコップ一杯分を少しの距離運ぶのにも難儀する泥が、
集落を埋め尽くすほどの量、短時間で流れてきたんだ。
改めて自然の力に畏怖を覚えた。
泥掻きはかなりの重労働。真冬だけれど、あっという間に汗だくになる。
そこへおばあちゃんがやってきた。足繫く仮設住宅から通っているのだ。
「あらぁ、あなた達!そんなことまでしなくていいのよ!!
もぉ、なんて!こんなことまでしてくれて…
良かったねぇ、お父さん!」
おばあちゃん、私たちの想像以上に喜んでくれて一安心。
「このお墓の裏はね、畑だったの。
業者の人が重機でここらへんを取り敢えず泥をよけてくれたんだけど、畑の土まで全部持ってっちゃってねぇ。
泥を片付けてくれるのはありがたかったんだけど、畑はまた土づくりからとなると大変で。」
「でも、また畑やりたいからね。
自分が食べる分だけだけど。
たくさん採れたら周りに分けられるし。」
川向こうでは黙々と畑の柵を作ってる男性がいる。
カーン。カーン。と単管パイプ地面に打つ音が響いていた。
昨日から引き続き、畑だっただろうと思われる場所で、小さな石を1つ1つ拾っている人もいる。
その周りには、信じられないほどの石と流木が泥に埋まっているのに。
おばあちゃんはご近所さんが海苔を洗ってるところへも案内してくれた。
そして「コーヒー屋さんにちょっと試食させてあげて!」って声をかけてくれた。
海苔をタライで洗っている掌から、直接生の海苔をいただく。
微かに海の香りがする。海苔がこんなにコリコリしているものだとは思わなかった。
「私は道具が全部流されちゃったから、採りたくても採れないのよ。
良かったねぇ食べさせてもらえて!」
そんなやり取りを見ていた海苔を洗ってる方が、
「ちょっと待ってな!」と言って、
袋一杯に詰めた海苔を分けてくださった。
私たちは少しでも役に立てればと思って来ているのに、
お世話になりっぱなし、感動させられっぱなしだ。
少しでも恩返しがしたくて、その後もひたすらに、夢中になってお墓の泥を掻き出した。
そして、おばあちゃんが畑だったと言っていた場所までの道のりもキレイにした。
2人の手作業では全部の泥を一日で掻き出すのは無理だったけど。
「もう充分!本当にありがとう!
こんなことまでしてもらっちゃって!
お名前教えて?
(名札を見ながら)
ケンさん。フミノさん、ね。
これで最後なんて言わないでまた来て。
喫茶・雪割草いつでも開けておくから。
コーヒー淹れてね。
遊びにも来てね。」
自分の力の無さから、頻繁に能登へと来ることはできない現実がある。
申し訳なくて、せつなくて、さびしくて、嬉しくて、胸が強く強く締め付けられた。
住む家屋を失った。家財も失った。
集落自体の存続も危ぶむ声が強い。
それでも、
海苔を育てたい。
畑を作りたい。
なにかを作りだしたいと願う人の多さに驚く。
黒島集落でも、「今、どこから手を付けて修繕して欲しいですか?」と訊ねると、
「あたたかくなる前に、畑を、なんとかしたい」
瓦が全て落ち、玄関ドアの代わりにブルーシートが打ち付けてある傾いた家の前で、そう言っていた人がいた。
生活の本質って、何なんだろう。
土と生きる、海と生きる、強さ、逞しさ。
そんなことまで、考えるきっかけをいただく。
帰り道、晴れることの滅多にない冬の日本海に、春のような暖かなお日様がキラキラと輝いて海面を飾っている。
そして、ボロボロに倒壊した漁港の建物と、
地震で数メートルも隆起したせいで、海から高く持ち上げられて、二度と海苔が採れなくなってしまった海苔棚と、
その横に、集落の誰かが一枚ずつ伸して干した岩海苔が、並んでいた。



海苔を作る過程は本当に美しいものでした。

代表山本さんに挨拶をして長野へと帰ります。

喫茶雪割草の前にて記念撮影

帰ってきてすぐにお味噌汁に。
他にも佃煮にしてみました。
こりこりとした食感は
調理しても消えません。